※本文には『2018笑福亭鶴瓶落語会』の詳細が含まれます。
 これから行かれる方、内容を知りたくない方は読まないようにして下さい。





前回の記事でも書きましたが、木皿泉ブームが自分の中に到来しておりまして。
元々大好きな脚本家さんなんですけれども、本を読んだのがきっかけ。

木皿食堂 (双葉文庫)
木皿 泉
双葉社
2016-05-12


これ読み終えて、作品を生み出すのにどれほど苦労を重ねたか、だとか
ヒットして欲しいけど書きたくないものは書きたくない姿勢だとか
作者の想いは作品にも投影されていて、温かく完璧でない登場人物の生い立ちを知ることが出来た感じ。
文中に『野ブタ。をプロデュース』の話がめちゃくちゃ出てくるもんで慌てて全話観ましたw
木皿作品でなければ絶対に観てないキャストですけど、観て本当に良かった。
当然「野ブタパワー注入!」ってやってます。家で。ひとりで。

本の中で木皿泉さんも語っておられますけど「脚本家の一番大切なことは、役者を生き生きと演技させること」と。まさに!という感じで、どの役者さんも、役を演じるのは楽しかっただろうな、と思うわけです。
山下智久さんの演技って俺、たぶん初めて観たけど、大ファンになったよ。
木皿泉さん曰く「あの役は山下君が作り上げた」と。シナリオの段階ではあそこまでぶっ飛んだ役じゃなかったとか。「後半、山下君の『彰』に引っ張られた」と語られてました。
勝手に脚本って、もっと現場と離れた場所にあるものだと思っていたけれど、少なくとも木皿作品は現場とリンクしながら創造していっているようです。

『木皿食堂』は僕にとってとても大切なことが書いてあった本で、いっぱい付箋を貼りました。
間違いなく何度も読み返す指南書になるだろうと考えたからです。今すでに何度も読み返してます。

もうこうなると止まりません。
ずっと買おうと思ってAmazonの欲しいものリストに入れてあった『セクシーボイスアンドロボDVD-BOX』を「マックスアターック!」と購入。中古ですが。
その後調べたらWeb上の赤い動画サイトに上がってるの発見したんですが…。ぜんぜん後悔はないです。
もう何年も昔に僕に『木皿泉』の存在を教えてくれた人が貸してくれて観たんですが、これが名作で。
『すいか』もそうですが、なんというかココロという部位がもし内臓として存在するなら、そこを両手でぐいーっと握られてる感じ。
「イタイイタイイタイ!あれ?あったかい?あ、キモチイイ♪」みたいなw

『すいか』も『セクロボ』も『富士ファミリー』も。
共通して言えるのが観終わった時にすごく淋しくなるということ。
自分がその作品の登場人物じゃないことに嫉妬を覚える感じ。
(『野ブタ。』もそうだけど、これは学園ものということもあり、堀北真希さんの顔って僕のトップオブザ好みであることもあり(最近気づいた)、該当からは外しておく)
初めてその感覚に陥ったのがドラえもんの映画版原作を読んだ時。それ以来の感覚。
つまり木皿作品は、藤子不二雄作品に匹敵するのだ!(ナヤ調べ)


というわけで、届いた『セクロボ』を一話一話観て行ってるんですが、ええ!こんなに良かったっけ?と。一話一話全部泣ける。
『木皿食堂』読んでる時から思っていたことだけど、普段から僕が考えていることで、世の中ってそれをあんまり大事にしてないんだなー、伝わらないんだなーって諦めかけていたことを、見事に作品化されてる。いつも木皿作品に触れると「あ、言ってイイんだ。ちゃんと伝わるんだ」って希望が湧いてくる。
とは言え木皿作品、やっぱり数字は取れないそうです。本人曰く。
けっきょく売れるのは木皿泉さんが「書きたくないもの」だそうです。
つまりみんなココロって内臓をギューッとされるのが嫌なのかも知れないですね。そういうのって時代でも移ろうのだそうで、けっこう悩んでおられるみたいですね。

もう僕なんかは木皿海に飛び込むと、いつも抜け出せなくなってしまうので、他の作品がツマらなくなるのが本音。
録画した番組なんかも放っておいて『セクロボ』を観進める感じ。

そんな状態の僕に迫ってきましたこの日
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2018笑福亭鶴瓶落語会

はじめての鶴瓶さんです。
いつも志の輔さん聞きに行く森ノ宮ピロティホールにて。

恒例だそうでオープニングは『鶴瓶噺』っていう漫談から始まる。
ほとんど客を待たせることなく弟子の一席もなく着物に着替えて本編の落語がスタート。
気取らずさっきの漫談の続きから話し始めるのだけど、何人の人が気付いただろうか、声が明らかにさっきと変わった。つまりスイッチが入ったのだ。

(すいません、今ちょうどスイッチで思い出したんですけど『野ブタ。』でね、なんかテーマパークかなんかでダブルデートしてる時に乳母車みたいなワゴン押して着流し姿の男が現れて「しとしとぴっちゃんしとぴっちゃん…」ってめちゃくちゃロックな子連れ狼歌うわけ。「え?だれ?シブ!」って思ったら清志郎なんだよ!いやいや、一話からずっと出てるんだけど、本屋の店主役だからこんなとこにいると思わないしさ。そのなんでもない歌聴いて「やっぱ清志郎ってスゲー」とか思ったんだけど。この役の中では清志郎、完璧に髪もセットして化粧もしてステージ上の『忌野清志郎』でずっと出てて。だからずっと「忌野清志郎」なんです。他の作品とかバラエティーに出る時は髪も下ろしててメイクもしてない時もあるのだけど、その時は『忌野清志郎』ではない。僕は清志郎のスイッチは化粧だと思っていて。『野ブタ。』観てそれは確信に変わった。この中の清志郎はスイッチ入ったままでめちゃくちゃカッコイイ!)

セットも凝っていて、照明もお芝居みたいに木漏れ日を表わしてたり。
落語は、僕は正直、志の輔さんの方が好みだなーって聞いてたんですけど、2席目で『山名屋浦里』というタモリさんが吉原で聞いてきた実話を鶴瓶さんに「落語にしてみたら」と勧めたという僕がずっと聞きたかった話をやってくれて大満足。
休憩挟んでもう一席。休憩中に一緒に行った友達と「次は何をやるんやろな?」と話す。これも楽しみの一つですな。
緞帳が上がるとセットが変わっていてスゲーかっこいい、鶴瓶さんが出て来られて、まくらで次の話の説明に入ります。
その中で何度も鶴瓶さんが「スライドオフという… スライドオフは…」と話されます。隣に座る友だちが僕の方をみてうんうんと頷いた。
??なんだ?スライドオフのこと?ごめん俺知らない。スライドオフって何?
前半は障子が一枚みたいなセットだったんですけど、変わってから4枚がヒーロー戦隊みたいに孤立して並んでるような感じで。これをスライドオフっていうの?だとしたらもうちょっと説明があってもいいんだけど…と思っていた。
あ、違う『スライドオフ』っていう演目のようだぞ!新作か?じゃあなんで友だちは知ってるんだ?
ちょうど1席目始まる前、鶴瓶さんが着物に着替えてる間、今年の鶴瓶さんの落語の足跡を辿っていました。それこそスライドでw
でやった演目を紹介して行ってて、よく出てきてた演目が『徂徠豆腐』。「これなんて読むんだろうね」なんて話してたのですけど。
けっきょく何やるかわからないまま、まくらが終わって本編へ突入。
鶴瓶さんが豆腐の行商を演じます。
「とぉ~ふぅ~」
ああ!あれをやるのか。なんて読むかわからない徂徠豆腐。志の輔さんのそれはしょっちゅう聞いていた。そういえばまくらでも「志の輔さんもやってまして」と言われてた。
ん?スライドオフはどこ行った?これをやるんじゃなかったのか?
スライドオフ?スライどおふ?すらい豆腐?
あああああああああああああああああああ!
そらい豆腐と読むのか!
徂徠豆腐がずっとスライドオフに聞こえていたというこのオチ
なんか俺だけ落語をもう一席聞いた気分w

それはよしとして。
徂徠豆腐は人情ものです。江戸落語ではけっこう人情ものは多いのだけど上方では初めて。
でも鶴瓶さんの人柄にはピッタリです。
さんざん聞いた演目ですけど、登場人物をちゃんと鶴瓶化してくれてて、とても新鮮に楽しめた。

落語はね、ぜったい人柄が出るんです。演者が登場人物に乗り移る。
別に衣装着てカツラ被ってってするわけではないので、当然と言えば当然かも知れないですね。
鶴瓶さんが語る徂徠豆腐はそれはそれは見事で。ジーンと来て。なんかココロって内臓をぐいーっと…
あれ?これどっかで似たような感覚が…

そうだ!木皿泉が描く世界に似てるのだ!
そういえば旦那さん(木皿泉は夫婦のペンネームです)が落語が好きって言っていた。
奥様は『松竹新喜劇』と。僕も松竹新喜劇の大ファンなんです。
そうか、木皿泉作品って、人情劇なんだ!落語とか松竹新喜劇にも通じているのだ!俺好きなわけだ。
鳴りやまない拍手の中、座布団を下りて客席に近づき、まるでひとりひとりに手を振る鶴瓶さん。
僕は正直、木皿泉が描く登場人物なんて、現実には有り得ないのだと思っていた。
目の前で手を振っている着物のあの人は、あきらかに木皿泉が描くニンゲンだった。


友だちたちは用事があり会場を出て解散。窯焼ピッツァが食いたかったのに!
というわけでひとりでいつものおでん屋へ。
女将とは大半が落語の話。ちょうどいい。
その日のメニューは当然…
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